自然災害と真菌症といいますと、ちょっと突飛な組み合わせに聞こえるかもしれません。
近年世界各地での大規模自然災害発生が報道されています。洪水や土砂崩れなどは従来の自然環境を大きく変え、環境中の生物に大きな影響を与える可能性があります。真菌は土壌や水の中に生息している微生物ですので、同じように災害に伴ってその分布を大きく変える可能性が指摘されています。
1994年1月に米国カリフォルニア州で大規模な地震が発生しました。その際近隣の山の傾斜地で大規模な地すべりが発生し、大量の土ぼこりが風に乗って広がりました。その1週間後、風下の町に発熱と肺炎患者の多発(合計203名)が始まり、死亡者も発生しました。この流行は調査の結果、コクシジオイデス症という真菌の病気であることが判明しています。原因となる真菌は土壌中に生息しているため、土ぼこりと一緒に風下の町に大量に拡散したものと考えられています。
我が国においても災害に伴う真菌症発生例があります。2011年の東日本大震災に伴う津波の後に被災者に発症した感染症の一部は、当センターも含めた調査の結果スケドスポリウム症という稀な真菌症であることが判明しており、これまでに3名の発症報告がなされています。この病気の原因となる真菌は通常湖沼などの環境中の水に生息しています。感染力が強いとはいえない真菌ですが、津波によりこの真菌を多数吸い込んだこと、被災後の様々な要因により抵抗力が低下していたことなどで、感染が多発してしまったものと思われます。
以上のように、自然災害と真菌症とは実は密接な関係があることがわかってきています。現在世界的に蔓延しているCOVID-19も、ひとつの「災害」ととらえることができ、また真菌症の合併も報告されています。
当センターは我が国唯一の公的な真菌症研究施設であり、大規模災害が予想される今後も、その社会的役割はこれまで以上に重要となると考えています。
(2021.8.2掲載)