菌株管理の一環として,病原真菌の形態および系統解析,種内多型および培養系並びに非培養系における迅速同定の研究を実施している.主要なテーマは以下のとおりである.
A. fumigatusの関連種A. lentulus,A. udagawae,A. viridinutansは,形態的には分生子の形,表面構造,分子系統的にはβ-tubulin 遺伝子などの塩基配列でA. fumigatusと区別できる.各種抗真菌薬に対する薬剤感受性 (MIC) において,関連3菌種はA. fumigatusと比較して,アゾール系薬剤,アンフォテリシン B に対して低感受性を示し,正確な分類・同定が求められている.そのため,リボソームタンパク質の分子量変異パターンからA. fumigatusを迅速かつ正確に同定・分類する新しい手法の開発を産総研佐藤先生と共同で行っている.全ゲノム解読されたA. fumigatusおよび類縁のNeosartorya fischeriの計3株について,リボソームタンパク質の質量分析を行うことによって,分類の基準となるリボソームタンパク質の正しい分子量リストを作成した.さらに,ゲノム解読株間で,一部のリボソームタンパク質に変異が生じていることを実証し,A. fumigatus類縁菌の同定及び株レベルでの識別が,本法によって可能であることを見出した.今後,従来の DNA 解析法で得られた分類結果や形態および薬剤耐性などの特徴と比較することによって,本法の妥当性を実証するとともに,得られたマススペクトルをデータベース化する予定である.
非病原菌として認識されていたCandida intermediaが臨床検体より分離されたとの報告を受けて,保存株について生育温度を中心とした生理学的性状の再検査を行った.また,同定の再確認として行った ITS のシーケンス結果では,種の同定に問題は無かったが,2 つのクラスターに分かれ,近縁種との関係を検討する必要があると思われた.本菌種のタイプ株は最高生育温度が 30℃ であり,通常はヒト感染症原因菌とはなり得なかった.しかしながら,保存株の大部分は 35℃~37℃ でも発育可能である事が判明し,本菌種ではタイプ株が必ずしも標準的な性状を示している訳ではなかった.
C. albicansの有性世代についての研究は,1999 年にsexual cycle 制御因子である Mating type-like (MTL) 遺伝子座が発見され,MTL 遺伝子の破壊株を用いれば接合が起こることが発表された.その後,接合型と White-Opaque (W/O) コロニー変換の関与が発見されたが,臨床株での Opaque 型コロニーの出現頻度(W/O 変換頻度)は 4 × 10-6 と非常に低頻度であり臨床株での交配行動はかなり稀であると言われていた.しかしながら,我々は中国からの臨床株 93 株を用いて,Mating Type (MAT) 型とOpaque 型(Phloxine B でコロニーが赤く染色される)を調べると,ホモの MAT 型を持つ菌株は全体の約 7% で,Opaque 型のコロニーを確認できた菌株数は全体の約 20% となり,W/O 変換頻度がこれまでの報告に比べて非常に高いことが判明した.さらにこれらの株では,MLTa1 および MLTα1 の塩基配列で point mutation が見つかった.これらの中で特に 3 株は,MLT型がa/αであるにもかかわらず顕著な Opaque 型を示し,このような変異が Opaque 型の出現に関与している可能性があると示唆された.また,これら菌株を用いて交配試験を行ったところ,高頻度で交配が進行しつつあると思われる形態が観察された.これらの結果は,MTL 遺伝子の破壊株以外の臨床株においても「交配による遺伝子リフレッシュ」が行われる可能性を示唆した.
食品でのカビの汚染事故発生時においては,迅速かつ正確に原因究明及び対策を講じることが必要であるため,耐熱性カビの迅速で簡便な識別同定法の確立が求められている.まず,Byssochlamys属および関連菌種の分類・同定で一般的な&beta-tubulin遺伝子を用いて系統関係を明らかにした.その結果を基にPCR反応の標的領域を決定し,B. fulva,B. nivea及び近縁のHamigera属,Talaromyces属を特異的に識別できるプライマーの設計を試みた.次に耐熱性を示さず環境中の分布の多いA. fumigatusは耐熱性を有するNeosartorya属と分子系統的に非常に近縁であるため,識別できる遺伝子配列が限られていた.しかし,β-tubulin 遺伝子配列においてA. fumigatusを含むNeosartorya属およびA. fumigatusのみ保存性が高く,かつ他では保存性及び類似性が認められない部位を特異的に増幅する部位を選択した.さらに耐熱性カビのうち高度の耐熱性を有するThermoascus属菌種について検討した.T. aegyptiacus, T. aurantiacus, T. crustaceous, T. thermophilusの4種において生育温度,耐熱性を測定したところ,どの菌種も食品危害の可能性があることから,Thermoascus属4種を他の属と識別できるプライマーを新たに設計し,その反応条件を最適化した.また,Chaetomium属では,C. globosum,C. funicolaが他の菌種と比較して高い過酢酸耐性を有することが判明した.それらの子のう胞子を透過式電子顕微鏡で観察したところ,他の菌種よりも厚い細胞壁を有しており,このことが高過酢酸耐性の要因と推定された.これら 2 種については,種を識別できる特異プライマーの作成を実施した.
矢口 貴志 | 准教授、室長 |
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伴 さやか | 助教 |
吉岡 育哲 | 特任研究員 |
伊藤 純子 | 技術職員 |
HUBKA Vit Lukas | 日本学術振興会特別研究員 |
長村 由美 | 技術補佐員 |
樋口 芳緒美 | 技術補佐員 |
甲田 暁子 | 技術補佐員 |
高橋 容子 | 特別協力研究員 |
清水 由巳 | 特別協力研究員 |
松澤 哲宏 | 特別協力研究員 |
五ノ井 透 | 特別協力研究員 |
濱田 盛之 | 特別協力研究員 |